UP20020426

Darling!!  ― 10 「ごまかしようもない、チャー○ーグリーンの世界。」




 本日の部活動も無事終わり。
 それぞれに帰宅の途に向かおうとする面々を眺めて、不二はおや、と微かな声をたてた。
「手塚、今日は越前君と一緒じゃないの?」
 手塚をひとり残し、とっとと部室を出ていってしまったリョーマの様子を見て、不二は部誌に手をかける手塚に視線を向ける。
 最近、毎日一緒に学校を出て行く二人を目にしていた不二の、当然の疑問だ。
 そもそも、帰る方向は全然違うのにいつも一緒にどこで何をやっているのか、そのあたりは周りにとってもまったく謎なのだったが。
「ああ、越前は用事があって実家の方に」
「実家?」
「……じゃなくて、家にまっすぐ帰った」
 ゲフッと咳込んだ手塚の、なけなしのフォローの言葉。
 それに気付いているのかいないのか、不二は「ふ〜ん」と笑顔で手塚を見る。
「最近、学校が終わるといつも一緒にいるみたいじゃない。何やってるの? もしかして、手塚らしくもなく毎日寄り道?」
「寄り道はしていない。越前の方が家に来ている」
 不二相手にウソは通じないと悟っているのか、微妙なラインで「ウソではない」事を口にする手塚。一応、いつもリョーマが手塚の家に行っているのは事実だ。
 ――正確には「帰っている」のだが。
「へええ。越前君も、ずいぶんマメになったんだね」
 毎日、というのはすでにマメとかいう域ではないと思うが。
「いつも手塚の家で、何やってるの?」
 何気に楽しそうな不二。
「別に。色々だ」
「イロイロ……ねぇ」
 確かに色々な意味でイロイロだ。
 不二の頭の中で妄想はたくましく、あれこれと勝手な想像が大股闊歩していたが、それはもちろん手塚には内緒なのだった。
 もっとも、その想像の大半は当たっていたりするのだったが。


 そして翌日。
 今日は珍しく、部活の終了時間が早い日だ。
 このテのストーリーでは年中そうではないか、とかいう事は言いっこなしとして。
「なな、不二不二〜。今日買い物に付き合ってよ」
「……何でスーパー?」
 どこぞのスーパーマーケットのチラシを振りながら猫なで声を出す菊丸に、不二は思わず呆れ顔を向けてしまう。学校にまでそんな物を持ってきている菊丸の次の台詞は、なんとなくわかるような気はするのだけれど。
「だってさ〜、今日あちこちのスーパーで特売なんだよ。うちの連中手分けして、大量に買い出しなんだよね〜」
 やはり。
 家族の多い菊丸家ならではというか。
「にゃにゃ、大石も一緒に言ってくれるってゆうからさ。不二も行こうよ」
 溜息をつく不二。
「しょうがないな〜」
「やったー! だから不二って好きさ!」
 荷物持ちを二人もゲットして、上機嫌の菊丸であった。


「……ねえ」
 さてこれから買い込むぞ、というまさにその時、不二は一点を指差して呟いた。
「あれって、手塚と越前君じゃないの?」
 その言葉に、菊丸と大石がその指の先を辿る。
「……ッ!!」
 大石だけが、一瞬にして蒼白になった。
 三人の視線の先で買い物カゴを片手にあれこれと物色しているのは、まさしく手塚とリョーマの二人だ。その光景は、夕食のお買い物中の若夫婦といったシチュエーションに、見事直球ストライクゾーンである。
「み、見間違いじゃないのか?」
「あんな目立つ二人を見間違うはずないじゃない」
 あたあたと慌てふためく大石の言葉も、速攻で一蹴されてしまう。
「ホントだ、おチビと手塚。何やってんだろ。おーい!」
「えええ、英二!」
「手塚ー! おっチビーッ!!」
 呼びかけられた二人が、振り返った瞬間に顔を強張らせたのが、大石にははっきりと見て取れた。
 不二も、面白そうに声をかける。
「何やってるの?」
 特売品の鳥のささみを片手に持った手塚の口が、うっかり半開きになっている。
「……夕食の、買い物を」
 一言一言、考えながら口にしているのがありありとわかる。
「越前君も一緒なの?」
「夕飯を……一緒に」
 リョーマの方はというと、少々憮然とした表情で。しかし彼のこんな表情は、何かをごまかそうとする時に良く見る表情だと、彼らは皆知っている。
「へー、夕食を? ねえ、僕もお邪魔して良いかな?」
「…………」
 全員が、一瞬無言。
「ふ、不二、いきなりじゃ手塚の家にも迷惑じゃ……」
「だって、手塚の家とは知らない仲じゃないんだし」
「えー! んじゃ手塚、俺も俺もーー!!」
「え、英二は家の買い物があるんだろ!?」
「そんなのいいよーん!」
「ねー、英二、一緒に行こうねvv」
「お前たちーー!」

「……」
 勢いに押されて、ついつい無言で見つめ合う手塚とリョーマ。
 そこには、ある種の諦めにも似た空気。
 ――バレるわ、これは。
 不二は、多分何を言っても断固として家までついてくるだろう。きっと、昨日の手塚のうっかり発言をきっちり憶えているのだ。
「――わかった」
 手塚の一言に、不二と菊丸は満面の笑顔でガッツポーズ。
 大石だけが、ひたすらオロオロと動揺しまくっていた。


「おかえりなさい」
「ただいま帰りました」
「……ただいま」
 相変わらずの微笑みで迎える彩菜に、それぞれ言葉をかける手塚とリョーマ。
「あら、お友達?」
 二人の後ろには、不二と菊丸、そして大石。結局大石も流れでついてきてしまった。
「あらお久しぶりね、こんにちは」
「夕食の人数が、増えてしまったんですが」
 呟きにも似た手塚の言葉に、しかし彩菜は微笑みを崩さずにリョーマを見た。
「あらあら大変、それじゃあリョーマさん、悪いけど少し手伝ってくれるかしら」
「……うーす」
 何故リョーマが手伝い?
 今この場での不二と菊丸の表情は、わかりやすい。
「あああの、俺も手伝います!」
 必死のフォローを試みる大石だったが。
「そんな、いいのよ大石君。お客様にそんな事させられないわ」
 ――おばさん、それを言っちゃあ!!
 ふーん、と呟く不二。
「越前君は、お客様じゃないんだ」
「手塚とおチビ、まるで新婚さんみたいだにゃ♪」
 菊丸の言葉に、その場の空気は凍りついた。
 正確には、大石の周りを中心に、だが。
「その通りっス」
「……へ?」

「おお、リョーちゃん! 今帰ったかーー!!」

 突如として現れた国一に、リョーマはグワシッと背後から抱き付かれた。
 今の彼はまさに、トドメの存在である。
「お祖父さん! 同意を得てからやってくださいと、いつも!」
「おのれこそいつも、堅い事言うな! いいのう、毎日無条件でリョーちゃんと一緒に眠れる奴はのー!」
「お祖父さん!」
 手塚はまだ気付いていない。
 国一は、リョーマにかまうのが目的なのではない。それもあるかもしれないが、むしろリョーマにかまっている時の手塚の反応を楽しんでいるのだ。
 二人のラブラブを見るのが愉快なのである。

「……本気なんだね」
 不二が呟く。
「ちょっと、冗談のつもりだったんだけどにゃ」
 菊丸もまたしかり。
 新婚ごっこなどではなく、マジで新婚なのだと、この時点で二人はハッキリと知った。
 そうでなければ、手塚家の面々のリョーマに対する態度の説明がつかない。
「ねえ、手塚?」
「新婚さんなんだしょ?」
「…………」
「……指輪、見る?」
 リョーマの一言で、その場は爆笑の渦に巻き込まれたのだった。
 大石だけが、その場で胃のあたりを押さえつつ、半泣きになっていたが。
 ――手塚……越前……。

 とっくに諦めてたならそうだと、もっと早く言ってくれよなァ――!!

 彼の心の中だけの叫びはもちろん、あたりに響く事さえなかった――。



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