UP20020319

Darling!!  ― 3 「咲き乱れましょう、アナタもワタシも」




 リョーマと手塚は、連れだって越前家への道のりを歩いていた。
 ――なぜこんな事になったんだろう。
 手塚はぼんやりと考える。
 というか、いくらなんでも展開が早くないだろうか。何の気ナシにリョーマを家に連れ帰っただけなのに、その日の内に嫁入り話、そして自分は今、越前家へと向かっているのだ。
 そう、リョーマを貰う事を承諾してもらうために。
 昨日までは、想像すらしていなかった展開だ。
「ねえ部長」
 胸の高さからの声に、手塚は視線を落とす。にわかに二人の歩みが止まった。
「あのね。俺、押し掛け女房みたいな事になるのイヤだから」
「……?」
「ちゃんと、チョーダイ?」
「……何をだ」
「プロポーズ」
「…………………………」
 マジか!?
「ホラホラ」
 本気か。もしかして、自分はからかわれているんじゃないのか?
 しかしリョーマの目は、怖いくらいに真面目だ。
「はーやーく」
 本当に、言わなければ駄目だろうか。このまま「冗談で済まさないか?」とか――いや、言える雰囲気では、ない。むしろリョーマよりも何よりも、自分の実家が。
 貰うという立場上、常識的に考えればプロポーズくらいするのが男の甲斐性、というものだろう。その程度の事は、中学生である手塚だって思いも及ばないという事はない、が。いかんせん、状況についていけなさすぎる。
 まだ青い時代のこの自分が、もう年貢の納め時、というか、人生の岐路?
「部長!」
 すでにリョーマは、100%その気である。ああ、でも。だけど。
「……」
 視線が。
「……」
 うう、ああああ。
「……」

「……結婚……して、ください」

 齢14にして、一世一代の名台詞(?)。しかしもうこんな、お約束のありきたりな言葉しか出てこない。
 手塚は思う。
 俺は、そんなに何か悪い事をしたんだろうか……。
 なんというか、これで今後の生活がすべて決定されるというか、何か周り中にハメられているような気がするというか、ああそれにしても、本当に自分は、この後輩を嫁に貰うつもりでいるんだ……いやはや、意外意外。
 ――いつもよりも、かなり多く回しております。
 隠し芸の皿回しもかくやといった感じでぐるぐると思考を回転させる手塚の手を、リョーマがヒョイと取ってギュウ、と握った。
 そして、極上の笑顔で。

「――ハイ」

 行儀の良い、プロポーズのお返事。
 つり目がちな微笑みが、まっすぐに手塚を見上げている。

 ――ポコン。
 この時とうとう、手塚の頭上にも、小さなお花が咲いてしまったのだった。
 もう誰の頭の上にも、お花ばっかりだ。

 この瞬間、手塚は完全に開き直った。

 いまさら何をそんなに悩む必要がある。
 どうせ、他にこんな対象になる相手なんていないじゃないか。自分にはもうリョーマしかいないのだからして。
 いいな、いいな、こういうのもいいかもしれないな、などと、キレイに頭の中が一変してしまった手塚に擦り寄りながら、実はリョーマが本気で死にそうな思いで爆笑をこらえていたのは……手塚本人には、抜群に秘密だが。
 それもこれもひとまとめに、愛ゆえだ(ツッコミ却下)。


 しかししかし。関門は、これだけではない。
 リョーマのご両親に、お許しを貰わなければならないのだ。特に手強そうな父親の南次郎がどう出るか。
 リョーマは心配ない、と言って笑うのだが。

 リョーマが事前に電話連絡しておいたせいか、南次郎はどこかのジイさん同様門前で腕組みをしながら待ち構えていた。その一歩後ろに、何気に楽しそうな顔をしている母と、菜々子さんまでいる。そこまでせんでいいという位、向こうの準備は万全だ。
「よお、手塚」
 うう、顔が怖い。
 南次郎の目の前で立ち止まる手塚。
 ここで、リョーマ奪取宣言をしなければならないのか。一体このオヤジに、どんな言葉を叩き付けられるんだろう。
「あの、」
「何だ」
 あうあう。
 間髪入れずに応対しないでくれ。
「あの……」
「ぶちょー、いいからいいから」
 手塚の言葉を遮るように、リョーマが割って入った。
「え、越前?」
「今更親父にそんな事言う必要ないよ。どーせうちには荷物取りに来ただけだから」
 南次郎が微妙に大袈裟に顔をしかめる。
「コラ、リョーマ」
「て訳で俺、部長んとこ行くから。カルピン連れてくよ」
 南次郎がクワッと目を見開いた。
「リョーマ、許さん、許さんぞォッ!!」
 狂犬の如くリョーマに食いつく勢いの南次郎。それほどまでにこの結婚(爆笑)を許すつもりがないのかと、一瞬ひるんでしまった手塚だが。
「何だよ親父!」
「カルピンは置いて行ッ……ガハッ!!」
 リョーマの飛び蹴り、炸裂。
「息子より猫か、テメーはッ!!」
「いやだわおじ様ったら、照れ屋さんなんだから」
「あなたったら、だからリョーマに嫌われるのよ」

 ホホホホホ……。笑う女性陣と、倒れ伏す父。
 怖い……。
 ある意味、自分の家よりも怖い。
「ほらほら、行こ」
 戦慄する手塚の手を引いて、リョーマは家の中へと促す。
 いいのかなぁ……まあ、いいんだろうなあ……。

 とりあえず強引に結婚の許しを得た彼ら(得たのか?)、早速準備をするために、そそくさと二階へと足を運ぶのだった。




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